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 今年初頭に新作『SCENES FROM HELL』を発表し、そのとてつもない仕上がりから、またまた世界中のHR/HMファンをことごとく驚愕、感歎させたSIGH──そのリーダー、川嶋未来のインタビューをお届けしましょう。

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★ ☆ ★ ☆ S I G H Interview 2010 Part 1 ★ ☆ ★ ☆


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 ●川嶋未来<Vo,key>
 ●Dr. Mikannibal<Vo,Sax>
 ●石川慎一<G>
 ●藤並 聡<B>
 ●原島淳一<Ds>


お:4月上旬に出演したフィンランドのフェス“Black Curse Over Hellsinki”ですが、ギターの石川慎一が結核と診断され、急遽セットを変えて彼抜きで臨んだと聞きました。彼が結核に罹っていることが判明したのは、フェスの直前だったそうですね?

川嶋未来:フェス出演は4月10日だったのですが、(結核だと)判明したのは4月6日です。そもそも、4日のリハの時点で高熱が5日も続いていると言っていて、医者には風邪だと言われたらしいのですが、いくらなんでも、風邪で39℃以上の熱はそうそう出ないし、ましてやそれが5日も続くのって尋常じゃないですから、大きな病院に行くよう言いました。それで翌日、検査を行なった結果、肺に水が溜まっていることが分かり、さらにその翌日、結核であることが判明。即入院となりました。


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お:結局、フィンランドのショウでは、あなたがベースを兼任し、(現ベーシストの)藤並 聡がギターを弾いたそうですが、セット・リストも当初の予定から変更されたとか?

川嶋:90分の予定を60分に短縮し、VENOMのカヴァーとファースト(『SCORN DEFEAT』:'93)の曲を中心にプレイしました。演目は、ファーストから「A Victory Of Dakini」「The Knell」「Weakness Within」「Taste Defeat」、VENOMが「Countess Bathory」「Teacher's Pet」「Schizo」「Withing Hour」「Black Metal」で、DEATHの「Evil Dead」もやりました。

お:オーディエンスの反応はいかがでしたか?

川嶋:それが、反応は非常に良くて助かりました。むしろ、元々のセット・リストをやるよりも良かったんじゃないかという感じで。フィンランドは、BEHERITやIMPALED NAZARENEなどを輩出しており、どちらかというと、プリミティヴなバンドが好まれる傾向にあるせいかもしれません。


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お:同フェスでは、他のバンドもご覧になりましたか?

川嶋:フェスは金曜、土曜と2日間だったのですが、残念ながら、到着が金曜の深夜だったことと、土曜日は自分達の出番の準備があったので、殆ど他のバンドは観られませんでした。出来れば、BARATHRUMなどは観てみたかったのですが…。

お:現在、石川は療養中だと思いますが、今後のライヴ予定はいかがされますか?

川嶋:とりあえず、5月12日に退院ということになりました。結核の入院期間も年々短くなっているようで、最近では1ヵ月で出てこられるケースも多いようです。アメリカでは、入院は10日くらいのようですし。なので、今後のライヴについては予定通り行ないます。
 あと──(3/20)の高円寺のライヴに来られた方で、もし2週間以上、咳が止まらないといった症状がある場合、迷わず病院に行ってください。結核菌というのは、4人に1人が保持しているものなのですが、通常の免疫を持っていれば発症はしません。また、菌を保持しているだけでは感染能力もありません。結核はそう簡単に発症するものではありませんが、万が一症状がある場合は、診察を受けてください。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。


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お:その3月の高円寺Mission'sでのライヴも、他のライヴと日程が重なっていて観逃してしまいました…。この時は、Dr. Mikannibalも揃っての、フル・ラインナップで行なったのですよね? (現在、アメリカ在住の)彼女の帰国に合わせてのライヴだったのでしょうか?

川嶋:フル・ラインナップでした。これは(ライヴ)企画に合わせて、彼女が帰国したものです。

お:どんなライヴでしたか? 観客の反応は? また、セット・リストも教えてください。

川嶋:35分の短いセットでしたが、9曲全て速い曲で濃密な内容だったと思います。お客さんの反応も悪くありませんでした。セット・リストは以下の通りです。

1.Prelude To The Oracle 2.Introitus 3.The Sould Grave 4.Death With Dishonor 5.The Curse Of Izanagi 6.L'art De Mourir 7.Me-Devil 8.Inked In Blood 9.Black Metal(VENOM)


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お:この日、Dr. Mikannibalはサックスを吹かなかったと聞きました。セット・リストの関係でしょうか?

川嶋:セットリストの関係です。持ち時間が35分しかなかったので、最近の2作を中心にプレイしたのですが、この辺りの曲は、全てiPodでオケを流して合わせる形にしています。バック・トラックを使わない初期の曲をやる時には、彼女がサックスを吹く形式です。

お:さて──改めて新作『SCENES FROM HELL』についてお訊きします。そもそも、このアルバムの制作を開始したのはいつ頃のことでしたか?

川嶋:'08年の初め頃だったと思います。最近のアルバム制作は、スタジオに入って、一定期間レコーディングに取り組むというのではなく、まずMIDIで曲を全て打ち込み、しばらく聴き込んで、アレンジし直して…というのを繰り返し、曲が出来上がったら、順次本物の楽器に差し替えていくというスタイルです。なので、昔はレコーディングしてみないと、最終形がどんなものか分からない部分があったりしたのですが、最近は完成形を見据えた形で、納得いくまで作業が出来るようになりました。まぁその分、〆切を決めないと、永遠に作業することになってしまうのですが…。

お:曲作りはどのようにして? 

川嶋:基本的に、僕がMIDIでデモを作り、譜面と一緒に他のメンバーに渡します。ただ、良いリフなんだけど続きが思いつかないというような場合は、そのリフをギター(の石川)に渡して、続きを書いてもらったり、逆に、ギターが書いたリフを元に僕が曲を仕上げるというケースもあります。

お:曲を書くに当たって、アルバムの方向性や楽曲のスタイルはあらかじめ決めていましたか? それとも、ただどんどん曲を書いていっただけですか?

川嶋:これは最初の頃からそうですが、まずアルバムの方向性を定めて、それに合わせて曲を書いていきます。『IMAGINARY SONICSCAPE』('01)のような、一見どの曲も方向性がバラバラのようなアルバムでも、完全にアルバムのコンセプトを決めてから作っています。なので、新しいアルバムを作る時は、まず最初にどういう方向性をとるかというのを考えます。


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お:アートワークは、正に『SCENES FROM HELL』というタイトル通りのイラストになっていますが、イラストを依頼するに当たって、何か注文や指示は出しましたか?

川嶋:アーティストには、ブリューゲル、ベックリン、ボス、デルヴォー辺りのイメージがあることを伝え、あとは歌詞とアルバムのデモを渡しただけで、それ以上の細かい注文は一切しませんでした。ラフスケッチが出てきた段階で、完全にアルバムのイメージを理解している感じだったので、そのまま全てを任せました。

お:アルバム全体に通じるコンセプトやテーマはありますか?

川嶋:元々はアルバムを、“死”“戦争”“地獄”から成る3部構成にしようと思っていたのですが、あまりすっきり収まらなかったので、“Musica In Tempora Belli”(の3部作)として、“戦争”の部分のみがハッキリと残っています。ただ“戦争”といっても、政治的なメッセージは一切なく、あくまで戦争というそのものを音で描写するようなイメージです。
 最初の2曲は、“地獄”パートの残りで、これも“地獄”とはいえ宗教的な含みはなく、疫病や飢饉といった現実的な地獄の描写です。日本でも、かつて珍しいことではなかった飢饉の記録を読むと凄いんですよ。飢えで死んだ人の肉を食った…とか。あと、西洋で沢山残されている、ペストが蔓延した時の絵画とか、ああいう世界を音楽で描き出すのが狙いでした。


 ▼ブリューゲル/『死の勝利』(部分)
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 なので音楽的には、今回のアルバムは非常に描写的になっていると思います。本来、絵画と違って音では何かを直接的に描写することは不可能ではあるのですが、リヒャルト・シュトラウスが推し進めた交響詩的な手法をとって、ヒントさえ与えられれば情景が目に浮かぶような作りにしました。例えば、最初の2曲では疫病が蔓延し、そこら中で人が死に、死神が飛び回っているような──ベックリンの描いた「Die Pest」という絵のような世界を描写しています。「The Red Funeral」や「Musica In Tempora Belli」では、空襲や戦車による砲撃などがイメージ出来ると思います。そんなアルバム全体のイメージを凝縮したのが、今回のジャケのアートワークです。


        ▼ベックリン/『ペスト』
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お:サウンド面では、ホーン・セクションが重要な役割を果たしているように思いました。ここまで大胆にホーンを導入しようと思ったキッカケは?

川嶋:金管楽器というのは、軍楽においても重要な役割を果たしていることからも分かる通り、人を興奮させる力があります。ヴァーグナーの「ヴァルキューレ」(『ニーベルングの指環』)が、聴きながら運転すると最も危険な曲に選ばれたりとか。当然、へヴィ・メタルにも人を興奮させる作用がありますから、この2つを組み合わせたら面白いだろうというのが最初の発想です。
 まぁ、元々金管楽器を充実させたいというのは前々からあったのですが、どうしても打ち込みだと、金管はパワー不足になってしまいがちでした。ところが最近は、ホーム・レコーディングが出来る人も増えてきて、インターネットを介してファイルを世界中と簡単にやりとり出来るようにもなってきたので、やっと今回のようなやり方が実現しました。

お:ロシア民謡的なムード、またスラブ、バルカンの音楽に通じるムードも感じました。

川嶋:ロシア/ソヴィエトのクラシック経由の影響でしょう。カレンニコフやフレンニコフ、グリンカや有名どころではチャイコフスキーなど、ロシアの作曲家からの影響は大きいです。ロシア民謡が妙に日本で普及していたり、ロシアの旋律というのは、日本人に受け入れられやすい何かがあるんだと思います。あと、スヴェトラーノフのようなロシア/ソヴィエトの指揮者の演奏も、非常に気に入ってます。ロシアの指揮者は、過剰に金管楽器を誇張したり、とにかく演奏がパワフルなので、ヘヴィ・メタルが好きな人にも受け入れられ易いと思います。最近では、ゲルギエフとか。

お:また、伊福部 昭の映画音楽に通じる重厚さ、シアトリカルなインパクトも感じましたが──こちらはいかがですか?

川嶋:今回のアルバムを作るに当たり、伊福部氏のスコアはかなり研究しました。氏の管弦楽法も一から読み返しましたし。伊福部氏の音楽に対する姿勢には、非常に共感を持てるところが多く、例えば“大楽必易=優れた音楽というのは分かり易くあるべきだ”であるとか、“個性というものは、出そうとするのではなく自然に出てくる”であるとか、氏の著作を読むと、興味深いことが沢山書いてあります。


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お:今回、ホーンやストリングスのレコーディングはどのようにして行ないましたか? Dr. Mikannibalのサックスと同時に?

川嶋:いや、これはもう全部別々のレコーディングです。トランペットはドイツ、トロンボーンはハンガリーと日本、Dr. Mikannibalはアメリカで、それぞれ録音したものを送ってもらい、ProTools上で編集しました。ただ、弦楽四重奏は4人同時に演奏した方がやり易いとのことだったので、都内のスタジオでオケに合わせて演奏してもらいました。

お:『SCENES FROM HELL』には、CURRRENT93のデイヴィッド・チベットが客演していると聞きました。どのようなキッカケで、また、どんな狙いで起用したのですか?

川嶋:キッカケは、アルバムのアートワークを手がけたエリラン・カントールの提案でした。彼がデイヴィッドを個人的に知っていて、紹介してくれました。最初はイギリスのウィルフレッド・オーウェンという詩人の戦争に関する詩を朗読してもらおうと思ったのですが、デイヴィッドはオリジナルの詩まで書いてくれるというので、是非にとお願いしました。
 元々の狙いは、“Musica In Tempora Belli”の3曲(「The Red Funeral」「The Summer Funeral」「Musica In Tempora Belli」)のイントロとして、詩の朗読が欲しかったのですが、結果としてイントロだけでなく曲中やエンディングにも朗読を入れて、彼の朗読が映画のオープニングとエンディングのような役割も果たし、“Tempora Belli”パートとしての統一感というか、独立感が出せた思います。

お:CURRRENT93、そしてデイヴィッドについて、メタル・リスナーの殆どがよく知らないと思うので、どういったバンド/人物なのか、簡単に説明して頂けませんか?

川嶋:デイヴィッド・チベットは、元々PSYCHIC TVにいた人で、CURRENT93などもアルバムによってかなり音楽性が異なったりするのですが、最近のアルバムでは結構メタル色もあったりします。初期の『DOGS BLOOD RISING』('84)や『IN MENSTRUAL NIGHT』('86)辺りが、怖くてお勧めです。


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お:ところで、『SCENES FROM HELL』に対するファンの反応はいかがですか? 日本と海外では違いましたか? 海外でも地域差はありますか?

川嶋:SIGHの最高傑作だ言いう人もいれば、最悪と言う人もいるという、いつものパターンです。アルバムの評価って、ある程度時間が経たないと定まらないし。新しいアルバムが出た時って、通常頭の中に期待があって、最初はそれとのギャップを聴くワケですからね。その点、シンフォニックなものを期待していたファンには期待通りだったでしょうし、『IMAGINARY SONICSCAPE』みたいなのを期待していれば、これは違うという風になるでしょうし。地域差というのはあまりハッキリは感じられません。反響の大きさという意味では、やはりアメリカが一番大きいです。これはまぁ、現在所属しているのがアメリカのレーベルというのもあるのでしょうが、Myspaceのアクセスなどを見ても、8割以上アメリカからです。今年の夏はヨーロッパでのフェスやライヴが幾つかあるので、ヨーロッパの市場にももっと入り込んでいきたいのですが…。
 
お:『SCENES FROM HELL』収録曲をライヴでプレイする際、オケを流して演奏しているそうですが、これまでSIGHは、アルバムのライヴ再現は敢えてやらないといったイメージがありましたが…?

川嶋:現在、『HANGMAN'S HYMN』('07)と今回のアルバムの曲に関しては、同期音源でやっています。クリックを使うと、ライヴならではのダイナミクスが失われるという懸念も当然あるのですが、オーケストラパートをシンセで代用した場合の出来と比較した結果、同期音源の方が良いという結論に達しています。ライヴでは、遅い曲が極端に遅くなったり、逆に早い曲が崩壊寸前まで早くなったりするのも、面白いんですけどね。

お:そういえば、先日YouTubeで「Prelude To The Oracle」のPVを観ました。失礼ながら、正直ちょっとチープかと思ったのですが、これはオフィシャル・ビデオですか?

川嶋:おっしゃる通り、あのビデオは酷いです。作りもチープなのですが、何よりも、僕らの世界観というものを全く理解していないんですよ。このアルバムがどのような世界を描いているのか等、説明してお願いをしたんですが、ジャケの時とは全く反対で、ある程度出来上がって見せてもらった時点で、「ああ、もう完全にアウトだな」という感じでした。技術的に拙いとか、その辺はまだイイんですよ。だけど、『SCENES FROM HELL』というアルバムと何の関わりもない映像ですからね。作り直せば良いものになるという感触もゼロでしたし。是非、'10年のワースト・ビデオに選出してもらいたいです。


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お:サウンドホリックがなくなったことで、今回、日本盤のリリースはありませんでしたが、今後、他のレコード会社から日本盤が出る可能性はありますか?

川嶋:いや、残念ながら日本盤が出る予定はありません。今回のアルバムも、安い時には、輸入盤がAmazonに1200円台とかで入ってきていましたからね。こういう状況で日本盤をリリースしてもらうのは、なかなか難しいです。また今後については、今回のアルバムでThe End Recordsとのディールも終わり、これからデモを作って新たな契約を探す状況なので、まだ何とも言えません。


                               [パート2に続く…]
by naniwametal | 2010-05-22 03:11
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